昨日の話の続き。卒論の中間報告(11月版)を見せてそのコメントをいただいた後で、先生からさらに加えてこんなコメントをいただいた。
「で、どうするの?」
「はぁ…と、おっしゃいますと?」
「いや、だからぁ、進学希望であるならばこの先の見通しみたいなのをぉ、まぁまだハッキリしたのが無くてもいいんだけどね、卒論を書く時にはそれを意識しときなさいよ、ということですよ」
「はぁ…」
独特の話し方をする老教授は、研究室のティーポットにお茶を作りながら続ける。
「卒論で書いたことをベースとしてさらに膨らませていくのか、それともゼロからまた始めるのか。さらに言うんであれば、理論を中心として行くのか、それとも卒論でできた理論を今度は実践に移していくのか、ということですよ。うん。」
「どちらでも構いませんけどね、うん。だけど。だけど。フィールドワークは重要なのでそれは覚えておいてください」
お茶をカップに注ぎ、それをぐいっと飲みながら先生は言った。
私はただその言葉を「うーむ」と聞くしかなかった。続く言葉が思いつかなかったのだ。今まであまり考えたことが無かったから。漠然とはあることにはあるんだけど…あまりに漠然過ぎて形にすらならなかったりする。ただ言えるのは、やはり理論にしろ実践にしろ「フィールドワーク」は一番重要であろうこと。
しかしながら私はこの「フィールドワーク」というのが少々苦手だ。事前にどれだけ下準備を進めていてもいざ聞く段階になると思うように聞けなかったり、欲しい情報が出てこなかったりする。さらには話者の気分を害するという最悪のパターンもある。三年の時のフィールドワークで体験したけどね、それ。
そんなことを考えながら先生の話を聞いていた。先生の話はフィールドの話から現在の観光地、昭和30年代ブーム、都市部と田舎という構造にまで広がった。その間先生は何回かカップにお茶を注ぎぐいっと飲んでいた。
「ま、そういうわけだから、がんばって。」
「はい、ありがとうございました。」
話を閉めて、先生はいつものにやりとした笑みを浮かべて研究室を出ていった。私は先生から聞いた話のメモを見つつ、「卒論書いていればぼんやりとしたのが形になるかな」と思った。