GXR + GR LENS A12 28mm F2.5
最近知った写真家に塩谷定好という人がいて、この人の写真がまあとにかくすごく良いわけです。
「わたしの好きな写真」にビシビシ来る感じで、もっと早く知っていたらなと思うんですよ。こういうビシビシ来る感じのものに出会うと。
その昔流行した技法に「ベス単フード外し」というのがあって。
何かというと、当時の大衆向けカメラ(という言い方があってるかは微妙なところだけど)にコダックの「ベスト・ポケット・コダック」という機種があって、そのカメラのフードを外して撮るという方法。フード兼絞りだったらしく、シャッター速度を稼ぎたい人が外して撮影したのがはじまりらしいのだけど、フード兼絞りを外すことによってシャープさが失われ、逆にソフトフォーカスな写真が撮れたことから、当時の写真家たちはこぞって「ベス単フード外し」を行ったらしいです。
絵画とも写真ともちょっとずつ異なる感じの、でもそれでいて印象的な作品が非常に多く存在しています。このぼんやりとした感じがなんとも言えない良さだと思うのです。
植田正治もベス単で写真集出してます。
ただ、このようにして撮影されていた「芸術写真」は、その後ドイツの流れなどを受けた「報道写真」に追われ、徐々に姿を消していくわけです(時局もあって芸術写真を「お写真」とバカにする風潮もあったとか)。
今見てもモダンな作品が多くてビリビリ来ますね。阪神モダニズム時代の中山岩太、ハナヤ勘兵衛らの作品なんかも大好きなのですが、塩谷定好も同時代の写真家のようです。
この塩谷定好は「ベス単フード外し」を行った作品を制作し、同分野の草分け的な存在なようです。当時のフィルムの色も相まって、非常に幻想的な世界を描いています。植田正治にも大きく影響を与えたとかで、写真集にもそのことが強く書かれていますが、確かにどことなく植田写真にも通じる部分があるように見えます。
両者とも鳥取県出身で、その地を対象として写真を撮り続けたという点も共通しているかと。やはり「自分のフィールド」を持つ人は強いなと思った次第です。わたしも早いとこ自分の撮り続ける対象を見つけないとなあと思うのです。森山大道なら路上、荒木経惟なら女性、浅田政志なら家族、桑島智照なら安達祐実…などなど、とにかく自分の技法や対象、フィールドを持つ人が強いのはどの分野でも同じなので、打ち込めるものを早く見つけたいと思うわけです。
それはさておき、こうした「芸術写真」「新興写真」は頑張っていた人が少ないうえに時代がある程度限られていてなかなか目にすることができないのですが、そのことが逆にすごく貴重で、もっと調査してみたくなります。
例えば、今住んでいる町ではどうだったのか、とか。
小さい町でも何かしらお金がある人がいて、趣味で撮影を続けていたことも十分にあり得るわけで。これまでの写真史にはあまり掲載されてこなかった「アマチュアたち」について、掘り下げて調べてみたいと思っている今日この頃。資料へのアクセスをどうするかとか、そもそもどういう方法を取れば写真を見つけ出せるのかとか、そういう部分をもっと考えなきゃダメなんだけど、とにかく今はそういうことをやってみたいですね。もしかしたら、塩谷定好に匹敵するような方がまだまだ出てくるかもしれない。そんなことを考えてます。